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版権同人小説ブログ
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保健室の引戸を開けると中に居たのは作法委員長の立花仙蔵だった。
茶色の床一面に撒かれた頓服薬を片手で拾い上げては箱に入れている。
端整な眉を顰めて億劫だと言わんばかりに乱雑に箱に投げ入れている其の光景を引戸を閉める事も忘れ見ていると此方を見ずに立花が言った。
「閉めろ、寒い」
「あ……すいません」
「手伝え」
「は、はい」
引戸を閉め終え床に膝を付くと周りに落ちている頓服薬を拾い箱へと入れる。
不図、立花の視線が此方に向いた。
「戦輪小僧か……」
「平滝夜叉丸です」
「怪我か?病気か?」
「余分に頂いた薬を戻しに来たんです。あの、保健委員は?」
本来、放課後ならば一人でも此処にいるはずの委員の姿が見えない。
「ああ……席を外している。其れより早く拾え!伊作が戻って来たら小言を言われる」
「はいっ」
急いで拾いながら何故立花は片手で作業を続けているのだろうと滝夜叉丸は思った。
片膝を付いて拾う立花を注意深く見てみると床が濡れている。
水滴が落ちる微かな音と御香の匂いに紛れ血の臭いが鼻先を掠めた。
「先輩……怪我をされているんですか?」
「………………」
立花は無言で滝夜叉丸の前にもう片方の腕を出した。
滝夜叉丸はうっと小さな声を発してしまった。
其れは酷い怪我だった。
緑の衣が捲り上げられ肘から手首に掛けて何かで切り裂かれた無数の傷があり、其処から絶え間無く血が溢れている。
「結構痛い」
「し、止血しないんですか?」
「止血?」
「床に血が落ちてますし……其の衣も血で汚れますから」
「其れもそうだな。お前、遣れ」
断る事も許されない立花の物言いに滝夜叉丸は何も言えず慌てて立ち上がると何時も保健委員が開けている棚から必要な物を何個か取り出した。
自身もよく怪我をする滝夜叉丸は手順を思い返し水の入った盥に手拭いを入れると固く絞り立花の血塗れの腕を拭いた。立花は相変わらず頓服薬を箱へと戻している。
盥で手拭いを濯ぐと赤く染まった。
怪我の原因は何だろうと再び立花の腕を拭きながら滝夜叉丸は考えた。
最上級生の中では実戦において三本の指に入る実力者だと聞いている。そんな立花が怪我をしたのだ。何か特別な任務を受けた先での怪我なのだろうか?
詮索してみたいが直接聞いても恐らく教えては呉れない。忍びとはそんなものだ。
がらりと引戸の開く音を共に叱責に近い声が飛んで来た。
「仙蔵!何だよ、此れ。何で頓服薬が床に散らばってるんだよ」
鋭い目付きの善法寺伊作は滝夜叉丸の存在に目を留めると直に柔和な態度に豹変した。
「如何したんだい?四年の滝夜叉丸君だね。怪我……の手当てを何で下級生に遣らしているのかな?仙蔵」
「丁度、此処に居たから」
「頓服薬は?」
「痛み止めを貰おうとしたら何処か分からず箱を引っ繰り返した。悪いな」
「新野先生の処にしか痛み止めは無いんだよ。で、君の用件は?」
「……余分に頂いた薬を返しに来ました」
懐から薬を差し出すと伊作は礼を言いながら棚に戻し
「すまなかったね。此の先は僕が手当てをするから大丈夫だよ」
と言うので滝夜叉丸は手拭いを善法寺に手渡すと引戸の方に向かった。
「有難うな、滝夜叉丸」
「あ、はい……」
突然名前で呼ばれたので滝夜叉丸は上手く受け答え出来なかった。
「如何したの、此れ」
引戸に手を掛けると同時に善法寺の問い掛けが耳に入る。
心臓の波打つ音が其の言葉に反応し少し早くなった。
耳を澄ませながら戸を開けると立花が答えた。
「洗濯場で野良猫を無理矢理構っていたら機嫌悪かったらしくて、引っ掛かれた」
「何遣ってんの……」
本当にな。
滝夜叉丸は心の中で呟きながら音を立てずに戸を閉めた。
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