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版権同人小説ブログ
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放置し過ぎて二年経過していました。
twitterで近状が把握出来る此の頃に此処へ足を運んで下さり有難う御座います。
来月末の超忍原稿にはまだ手を付けていませんが文仙で参加します。
其処は相変わらずです、ずっと変化はしないですね。
新刊は久々に文仙と延ばし過ぎてる綾仙、そしてナナユキ。
ナナユキは、エリートと幻術遣いです。ドクタケの。
今年も上記のCPで小説を書いてますので、見掛けましたら宜しく御願い致します。


twitter / pixiv / Mobile Photo
PR
百日紅で東京開催を中心に大阪にも時折ですが遠征しています。


20190428 超忍FES 
20190915 忍FES15
20191201 十忍十色

◇新刊◇

twitterにてイベント前日に発行の有無を御確認下さい。
イベント前後辺りは常に鍵を外しています。


◆既刊◆

pixivにサークルカットと共に掲載しています。

同人に御理解の無い方や関係者、中学生以下の御子様の閲覧は御遠慮下さい。
また、無断による転載行為等は全て禁止とさせて頂きます。

2005年11月からブログを開始し2008年7月20日に移転。
現在はtwitterやpixivでの更新が頻繁になっています。
リンクフリーアンリンク

文仙中心に仙蔵受け傾向。
現パロ女体化パラレル年齢操作等、節操無く書いてます。
更新も本の発行も蝸牛の速度です。





【管理人】
アメヤモチコ
(旧名:三原七草・七草粥子・飴屋餅子)
都内在住の山羊座O型

「い組の三年は伊賀崎だけか」
文次郎が孫兵を見遣ると隣に居る仙蔵が欠伸を噛み殺す。
二人の上級生に視線を注がれた当の孫兵は首に巻き付いている蛇の背を撫でている。
「其れで、如何する?文次郎」
「交流を深めるのが目的だそうだが……」
文次郎は言葉を濁した。
取り合えず己を含めても此処に居る者達で会話が弾むとは到底思えない。
仙蔵も同様に考えているのかいないのか当然のように自分に采配を託している。
あの、と孫兵が口を開いた。
「出来ればで好いんですけど、図書室で過ごすというのは如何でしょう?」
「図書室か?」
「読んでみたい書物が有るのですが五年生からの閲覧となっていて読めないんです。でも、先輩達の名義なら借りれるから此の機会に御願いしたいんですけど……駄目ですか?」
「閲覧制限が有るのか」
文次郎は仙蔵に視線を送ると即座に仙蔵が答えた。
「好いんじゃないか、別に読ませても。問題無かろう」
「他に思い浮かばないから其れで行くか。伊賀崎、図書室の鍵借りて来い」
「有難う御座います!」
ぱっと顔を輝かせて一礼すると孫兵が駆け出した。
其の後を緩慢とした歩みで文次郎と仙蔵が歩き出す。
「図書室に行くのは構わんが書物だけ借りて他の所へ行かないか?」
「構わないが、何処へだ。仙蔵」
「静かな場所なら何処でも好い。私は眠る」

校庭の真中で此れは如何したものかと作兵衛は自分の両隣と目前に居る上級生を交互に見た。
無自覚な方向音痴の次屋三之助と決断力のある方行音痴の神埼左門。
そして、豪快な七松小平太に無口な中在家長次。
「…………具体的に何をして過ごしますか?」
誰も口を開かないので仕方無く作兵衛が口火を切ると七松が唸った。
「午後の授業を全て使って過ごすからなぁ……そうだな。取り合えず、走るか?」
取り合えずで走るという選択肢は無いだろうと作兵衛は思った。
七松が隣に居る中在家に同意を求めると聞き取れない相槌を打っている。
左門と三之助は地面にある蟻の穴塞ぎに夢中になっている為、大人しい。
拙い。此の侭だと確実に七松先輩の意見に従う羽目になる。
作兵衛は慌てて挙手した。
「七松先輩!走るのは無しでお願いします」
「じゃあ、駆ける?」
「駆けるのも駄目です」
「あ」
「歩くのも無し!先輩達、此処に二大方向音痴が居るのを忘れてませんか?」
指し示すと左門が顔を上げた。
「大丈夫!こう見えて私も三之助も学園内には留まれてます!」
「てめぇは少し黙ってろっ」
「よし。富松の気持ちは分かったから、こうしよう」
うんと大仰に頷いてから七松は言い放った。
「神崎と三之助を鬼にして、必ず時間内に捕まえる事を目的とした鬼ごっこに決定。俺にしては冴えてる」
「そうだな」
中在家の言葉で覆せない事を悟った作兵衛は落胆した。

何をすれば好いですかという問い掛けに伊作は留三郎を見た。
すると相方は矢羽音で凄い面子が揃ったなと伝えてきた。
如何ゆう意味と返すと不運の異名を取る奴が二名も居ると答えるなり口元が笑っている。
確かに此処に不運と呼ばれる自分と三反田数馬が居るのだが、留三郎も別の不運の異名を持っている。
自分の事を忘れているよと心中で呟きながら、伊作は数馬と浦風藤内に話し掛ける。
「さて、君達は何をして過ごしたい?」
「藤内は何したい?」
「うんとね、折角こうして先輩方が居るから勉強を教えて貰えればなぁって思うんだ」
「そうだよね、先輩方に教えて貰えるしね。先輩、僕達に勉強を教えて呉れませんか?」
伊作は留三郎に目を遣った。
「僕も其れが好いと思うけど君は」
「外は危ないからな、室内なら問題無く過ごせるだろうし」
「穴に落ちなくて済むって言いたい訳?」
「目くじら立てるなよ、伊作」
「言っとくけどね、室内だって危ないんだからね!先週は蜂に追い掛け回されて階段踏み外したよ」
「俺と文次郎で受け止めたアレか」
すると数馬と藤内が驚いた様子で声を上げた。
「先輩も蜂に追い掛けられたんですか!僕もですよ」
「数馬も蜂に追われて逃げ回ってました」
何となく全員の胸に嫌な予感が過ぎり、其の場が沈黙に包まれた。

「三郎次とは委員会が同じだけれど其の他は余り面識が無いな」
「俺なんか皆とそんなに喋った事ないから、自己紹介から始めた方が良さそう」
二年の池田三郎次と川西左近、能勢久作の顔を眺めながら兵助と勘右衛門が話していると不意に兵助の肩が叩かれた。
振り向くと笑顔の八左ヱ門が居た。其の後ろには三郎と雷蔵、其れに時友四郎兵衛の姿があった。
「よう、両名。お暇だったら俺達と遊ばない?」
「そっちも暇なのか?」
「というかさ、時友って確か組違くない?」
勘右衛門の問い掛けに三郎が顔を四郎兵衛に変化させると答えた。
「は組の五年もろ組の二年も居ないから組まされたんです」
「ああ、成る程ね」
「五年が三人と二年が一人という組合せより五年五人と二年四人の方が過ごし易いと思うんですぅ」
「時友は語尾伸びないだろう、三郎。でもまあ俺も其れが好いと思うな」
勘右衛門の言葉を受けて兵助は三郎次と名前を呼んだ。
「二年も其れで好いか?」
「好いと思いますけど、何しますか?」
「其処が問題だよな」
人数が増えたからといって遣る事が決まった訳では無い。
「八左ヱ門は何かしたい事は有るか」
「俺?」
「此の面子で有意義に時間を過ごせそうな事。何か有るか?」
「あるとしたら、昨日生まれた山羊二匹に名前を付けるぐらいしか」
「やあちゃんとぎいちゃんは如何だろう」
「兵助……其れは流石に」
一寸待てと三郎の声が上がった。横に居る雷蔵が顔を顰めている。
「雷蔵が悩むじゃないか!」
「あーうんうん。じゃあ、皆で木陰に移動して山羊の名前を考えよう。兵助、此れで好い?」
全く気にも留めない勘右衛門に促され、兵助は頷いた。
何故、やあちゃんぎいちゃんの名前に渋い顔をされたのだろうと考えながら。

「一年い組の諸君!今日は此の平滝夜叉丸に質問が有れば何なりと答えよう」
教卓に手を置いて滝夜叉丸が言うなり後ろに控えている喜八郎が頭を振った。
「まずは、黒門伝七。訊きたい事は有るか」
「まだ思い付きません!」
「そうか。では、其の横に座っている任暁佐吉は如何だ」
「考え中です!」
「沢山有るだろうから整理してから言えよ。後ろにいる今福彦四郎は何か有るか?」
「もう一寸、待ってて下さい!」
「あっはは、時間はあるからな。待って遣るとも。上ノ島一平、お前は」
「えっと、其の……」
まごまごしている一平の言葉を待つ滝夜叉丸の後頭部を喜八郎は強めに叩いた。
「何をする、喜八郎っ。痛いじゃないか」
「煩いから黙りなよ、滝夜叉丸。此れは君の時間じゃなくて皆で過ごす時間でしょう」
「だから成績優秀な私への質問というだな」
「七松先輩に言い付けるよ」
顔を寄せて七松の名前を持ち出すなり、滝夜叉丸が急に口を噤んだ。
此の自惚れる相方が下級生と上級生の前では態度が一変するのを喜八郎は余り好まない。
好まないが特に七松に対する態度は絶対的なので便利な時もある。
「はい!質問しても好いですか」
伝七の元気な声に喜八郎は顔を向けた。
「どうぞ」
「如何して七松先輩の名前が出たら黙って仕舞われたんですか?」
「わあ、凄く好い質問。教えて呉れるよね?滝夜叉丸先生」
「ぐっ………」

「お前達ろ組は外で遊んだりするのか?」
教室の床に座り、目前に居る一年生四人の顔を端から見ながら三木ヱ門は尋ねた。
全員が体調が悪い訳でも無いのに顔色が青褪めている。
「外で遊んだりしますよ」
鶴町伏木蔵が言うと続けて初島孫次郎が頷いた。
「斜道先生が、汚いから泥遊びはしちゃいけないって言うんで日陰で他の子達を見てたりしてます」
「楽しいのか、其れ?」
「凄く楽しいです」
「待て。そもそも其の中に加わらないのか?」
「日向で遊ぶと怪士丸が貧血起こして倒れちゃうから駄目なんです」
言われた方の二ノ坪怪士丸がそうなんですと声を上げた。
「曇りだと結構平気なんですけどね……」
「他には何をしてるんだ?ええと、鶴町」
「建物の探検とかしてます。此間は隠し扉見付けて学園長の部屋まで行けました」
「へ………?」
学園の建物には無数の仕掛けが施されているのは知っているが実際の場所は知らされていない。
ただ教師達だけが頻繁に使用しているらしい。
当人達は面白い遊戯の一つとして捉えているようだが此れはかなり凄い事だ。
「他にも道を見付けたりしたのか?」
「はい」
「じゃあ、一番面白かった道を覚えていたら案内して呉れないか?」
探究心と好奇心が湧き上がり提案すると一年生達は車座になり小声で相談した。
暫くして鶴町が三木ヱ門に告げた。
「好いですよ」
「でも、田村先輩。他の人には内緒にして下さいね」
「喋っちゃ駄目ですよ」
「分かった」
そうして、先程から一言も発しない下坂部平太に視線を移した。
目が合うと平太はびくりと身を竦ませ孫次郎の背に隠れた。
「こいつは……」
「平太は怖がりで人見知りが激しいんで気にしないで下さい」
「平太。探検行くから厠に行っておいで」
「僕も一緒に行って上げるから、ね?」
怪士丸に手をひかれて平太が出て行く後姿を三木ヱ門はぼんやりと眺めた。

「蛞蝓は好きですか!」
「タカ丸さん、僕お腹空いちゃって動けません……」
「僕等と午後は一緒に過ごすんですよね。何して遊びますか?」
「いやぁ、タカ丸さん来るって知ってたら町まで行って稼げる手筈を整えたのにな」
「タカ丸さんの髪って解いたら何処まで毛があるんですか!」
「団蔵…毛って。其れよりタカ丸さん。今度、山田先生の火縄銃の補習受けるって本当ですか」
「七松先輩の髪の毛がぼさぼさなんで如何にかして上げて下さい」
「教室の廊下側の壁板、右から数えて五番目。押さないで下さいね。飛びます」
「あと後ろの何処かにある板を剥がすと落ちるんでよろしく」
「明日の委員会って火薬庫の掃除で良かったんですよね?土井先生、明後日って言ったんですけど」
「皆!一遍に言ったらタカ丸さんが困るだろうっ」
庄左ヱ門が言うと一年は組は静かになり、喜三太が手を上げた。
「蛞蝓は好きですか!」
問われた斉藤タカ丸は一人に対して十一人は多過ぎるだろうと困惑を隠せなかった。
「わ…割と、苦手です」
▼寒い月夜に冷えた身体の仙蔵が文次郎の布団に潜り込む
其の日は冬至だった。
夕食には当然、全ての献立に南瓜の煮物が添えられていた。
甘めに味付けされた南瓜の実は濃い山吹色で皮は深い緑、少ない量とはいえ充分美味しく誰一人残さなかった。
風呂には既に最上級生である福富しんべヱの実家から届けられた沢山の柚子が湯に浮かんでおり、独特の香りが満ちていた。
間も無くして時間の経過と共に柚子湯に変化が生じる。
一年生が入浴した時は固い果実が段々と湯に浸かる所為でふやけ、其れを潰す者が続出するので仕舞いの最上級生が入浴する頃には悲惨な柚子が湯船の底に沈んでいるだけだった。
辛うじて形其の侭に浮かんでいた柚子を団蔵が掴み取る。徐々に力を加えて残りの果汁を湯へと注ぎ入れた。
「只でさえ湯船の中に柚子の残骸が有るのに増やすか?」
「佐吉……此れは何というか、俺の握力を試す為に毎年してて」
にこりと愛想の好い笑みで団蔵が穏やかに答えると湯船の縁を肘掛け代わりに使っている兵太夫が鼻でせせら笑う。
「握力を試すのは結構ですけど意外に絞れてないんじゃない」
むっとした様子の団蔵が手にした柚子を掲げた。
「何処から如何見ても此れ以上は絞れません。あ、そうか。兵太夫は俺より体力無いから羨ましいんだ」
「湯当たりしたの。言動が可笑しいわよ、団蔵ちゃん。大体何で僕がお前を羨ましがるんだよっ。逆なら分かるけど」
「じゃあ、あれですか?此間の予算会議の結果を根に持ってるんですよね。作法委員長の笹山兵太夫さんは」
「あら?お分かりになられました。会計委員長の加藤団蔵さん」
「何度も言うけど、あれが経費で落ちる訳無いだろ!」
「嘘!落ちるね。だって歴代…でもないけど落とせた年あったし」
「からくり製作費用って作法関係有るのかよ」
「ぐだぐだ言わずに黙って落とせば好いんだよっ」
先日行われた予算会議での派手な遣り取りを風呂場に居る全員が思い返していた。しかし、こうして委員長同士が言い争いを勃発しても直ぐに鎮火するので然して気にする者も居ない。
互いの副委員長が喧嘩早い委員長を止めるからだ。
「団蔵。柚子掲げて立ってる場合か。湯冷めするぞ」
「何時まで風呂に浸かってるんだ?茹だるから出よう、兵太夫」
佐吉と伝七がほぼ同時に声を上げた。どちらも苦い顔をしている。二人はとっては業務の中に委員長の世話が含まれている点が最大の頭痛の種だった。
仕方無いという風情で団蔵が湯に浸かろうとすると手にしていた柚子が横から掠め取られ、空中に浮かんだ。
打ってという言葉に従い反射的に団蔵は柚子を叩き飛ばした。
飛ばした先には湯船から上がろうとしている兵太夫の背がいた。目掛けた心算は毛頭無いのだが勢い良く其の背に衝突した。
兵太夫の背中が反り返ると涙目で団蔵へ向き直る。
「馬……てめぇ」
「いや、あの……ごめん。当てる気は無かったんだけど何か手元が狂っちゃって。顔怖いんだけど、兵太夫ちゃん」
「此の僕の柔肌に何しやがるっ!」
「や、柔肌って」
兵太夫は湯船に手を突っ込むと潰れた柚子を拾い上げた。団蔵が後退りすると兵太夫は柚子を投げ付けた。佐吉の顔面に。
佐吉は自分に来ると想定していなかったので見事に潰れた柚子を顔面に受けた。柚子の果汁が矢鱈と目に染みた。
「笹山ぁ……」
顔に付いた柚子の房を拭うと兵太夫が柚子を手にし言った。
「そもそも予算会議の資料や選定って其処の馬じゃなくて、佐吉お前が全部遣ってるんじゃん。馬は判子押してるだけだろ」
「確かに俺は字が未だあれだし佐吉に任せるけど会議の揉め事は俺の管轄!っていうか、兵太夫も全部伝七任せだろ!」
「だって、伝七ちゃん有能だ、しっ」
更に原形を留めていない柚子を団蔵に投げると団蔵は素早い動きで柚子をかわした。柚子は団蔵の後ろで暢気に肩まで浸かり温まっていた金吾の後頭部を直撃した。
金吾は無言で湯船から立ち上がった。しかし、水音と共に其の両手には柚子がしっかりと握られていた。
「え?如何して金吾は二つ持ってるの?」
「団蔵……知ってるか?こうゆう場合な、喧嘩両成敗だ!」
渾身の力で金吾が投げた柚子を間近に居た団蔵は避け切れず、ぎゃあ痛ぇと叫んだ。兵太夫はくるりと身体を捻る。代わりに伝七が悲鳴を上げた。
「兵太夫っ」
涙目の伝七に名前を呼ばれた兵太夫はえへへと笑った。
「攻撃まで受けて呉れるなんて、黒門伝七さん凄い有能ですね」
「お前が避けたから僕に当たっただけだろう!」
「そんな怒んないでよ。僕とお前の仲じゃないか」
「等と言いつつ……」
「食らえ!作法の攻撃っ」
兵太夫と伝七が団蔵と金吾へと柚子を放る。
 
脱衣場には三冶郎が居た。
冬は身体が冷えぬよう長湯をする習慣があるので今日も今し方まで温まっていたが団蔵が投げたのを目にすると湯から上がった。
ふうと手で扇ぎながら息を吐くと引き戸が開いて、学級委員長である庄左ヱ門と副委員長の彦四郎が現れた。
「御疲れ様、二人共。一緒って事は委員会の仕事?」
三冶郎の問い掛けに庄左ヱ門が答える。
「議事録が溜まっていたから整理していたんだ。僕等が一年生の頃の議事録まで出て来て結構興味」
がごんという物音に庄左ヱ門の言葉が遮られた。怪訝そうに戸を見詰める彦四郎が三冶郎へと視線を移す。
「中は如何なっているんだ?」
「雪合戦みたく柚子の投げ合いになってるよ。」
「誰が中に居るか分かる?三冶郎」
「は組は兵太夫と金吾、団蔵。其れにきり丸と乱太郎も。い組は佐吉と伝七で。ろ組は平太と伏木蔵だよ、庄ちゃん」
「有難う。如何する?彦四郎」
「六年にもなって風呂の柚子投げてる場合かよ。力が抜ける」
重い嘆息を吐く彦四郎の肩を労うように庄左ヱ門が叩く。三冶郎は寝巻きの帯を締めると一言付け加えた。
「作法と会計の言い争いが始まりだけど、柚子の投げ合いの切っ掛け与えたのは伏木蔵だよ」
 
「伏木蔵。お前が団蔵に柚子投げろって言っただろう」
「えー何言ってるのか、僕分かんないなぁ」
「言い逃れると思うなよ」
「怖い顔しちゃって……で、証拠はあるの?」
間延びした声に問い詰めていた佐吉はぐうと詰まった。学年で一番小柄な伏木蔵がくすくすと笑う。
「駄目じゃない、佐吉」
「好い!お前じゃ埒が明かない。おい!平太っ」
佐吉より背が高い平太は身を竦ませると気弱そうに何と呟いた。
「お前は何時も伏木蔵の隣に居るんだから見ていただろ?事の発端はこいつが団蔵に声掛けたからだろ。なあ」
「ええと………」
平太は伏木蔵と佐吉の顔を交互に見る。佐吉は中々答えようとしない平太に苛立ちを感じ、早くしろよと催促をした。
団蔵の投げた柚子の残骸が洗い場に居る乱太郎の足元まで滑り込んで来た。
「良く飽きないよね、皆」
「気が済むまで遣らせとけば好いんだよ」
隣で熱心に髪を洗うきり丸に乱太郎は苦笑した。
「其れ?しんべヱから分けて貰った新しいの」
「そうそう。見てろよ、乱太郎」
きり丸は自身の横に置いた盥の湯で髪を濯ぐと長く伸ばした黒い艶やかな髪を背中へと流した。
「其処いらの女でも俺の髪には勝てないぜ。よし!此れでまた勘違いした野郎から奢って貰える」
「本当にきりちゃんは何をしているの?」
「茶屋の看板娘してるの。最近の俺の心の師は伝子さんだぜ」
「うわあ……其れ聞いたら、山田先生は嬉しくて咽び泣くだろうけど土井先生は悲しみで咽び泣くよ」
また乱太郎の足元に柚子の残骸が届いた。乱太郎は拾うと
「ねえ、柚子湯に浸かれると思う?」
きり丸に判断を委ねた。
宛ら戦場のような湯船を一瞥するときり丸は即答した。
「無理だろ」
「だよね」
仕方が無いと乱太郎は立ち上がった。
「身体が冷えないように帰り掛けに医務室行こう。美味しい葛湯が夕方届いたんだ」
「なら、しんべヱも誘おうぜ。まだ部屋に柚子があったし其の皮でも葛湯に散らせば柚子湯になるんじゃねえの?」
「そうか。其れ好い!頭冴えてるね」
「…………偶に酷い事さらっと言うよな、乱太郎は」
「気の所為だよ」
乱太郎が脱衣場との仕切り戸に手を掛けると戸が開いた。
其処には彦四郎と庄左ヱ門が立っていた。
「あれっ?」
「よ!御苦労様」
きり丸が手をひらひらさせながら挨拶を交わすと余分に開けた戸から脱衣場へと移動した。乱太郎も続く。
学級委員の二人は風呂場に制服で入ると戸を閉めた。
一頻り騒ぎ声がしたかと思うと深と静まり返る。張り詰めた緊張感が戸を隔てた脱衣場の二人にも届いた。
「罰は何になると思う、きり丸」
「反省文で正しい柚子湯の入浴方法について、だろうな」

金銀に碧玉や水晶、瑠璃真珠。其れに翡翠や瑪瑙。
夜空にあるあの三日月も
お前が望むなら何でも全て呉れて遣ろう。
伊作。お前は私の掌中の珠だ。
 
 
一面の雪景色が視界に拡がり伊作は目を細めた。
教員室に届け物をした帰り道、誰かが開けて行った出入り口の戸の隙間から雪が吹き込み床を白く染めていた。
閉めようと近寄ったのだが伊作は足を止めると景色を眺めた。
恐らく躑躅であろう植え込みの一群に雪が覆い被さっている。
塀の傍には寂しげに紅葉の木が佇んでいて、雪の重さに耐え切れなかったのだろう。雪折れした枝が落ちていた。
其の枝も既に大分雪に埋もれて見え辛くなっている。
そういえば、此処の処ゆっくり外を見る余裕も無かったな……。
冬ともなれば医務室は俄かに活気付き忙しい。
風邪に罹る生徒が現れる所為だ。如何しても蔓延し易いので此の時期だけは医務室で必要ならば寝泊まりする程だ。
息を吸うと雪の匂いがした。
不思議なもので雪が降る直前の空気も同じ匂いになる。
伊作は地面に降り積もった雪に掌を静かに置いた。熱で雪が溶けて、雪の挟間へと流れていく。直に今の水は凍る事だろう。
濡れた手を袖口で拭うと戸を閉めた。
屋根に積もった雪を降ろしている音と下級生の歓声が聞こえた。
 
医務室の戸に着くと賑やかな中の様子が戸伝いに窺えた。
「只今戻りました」
「お帰りなさい。伊作先輩」
薬棚から頓服薬を手にした二年の川西左近が振り返る。
部屋には他に五年の不破雷蔵と竹谷八左ヱ門、四年の田村三木ヱ門に三年の富松作兵衛が居た。
三木ヱ門と作兵衛は先日まで別室に設けられた部屋で寝泊りをしていたので余った薬を返却しに来たのだろう。
此方は如何したんだろう?
見た限りでは怪我も病気もしていそうにもない。
「伊作先輩、すいません。此れは何処にあるんですか?」
左近は手にした紙を伊作へと手渡した。
其れは医師の新野の字で細かく薬が指示されている。
「症状が重そうだけど……此れ、誰への処方?」
「鉢屋三郎先輩用です」
雷蔵と左ヱ門が軽く会釈をした。
「珍しいね、鉢屋は風邪に罹るなんて」
「そうですよね。其れなりに自己管理してる筈なんですけど」
「所謂、鬼の霍乱だと俺は思いますけどね」
二人の言葉に相槌を打ちながら左近に三木ヱ門と作兵衛の相手を頼むと薬棚から必要な薬を取り揃えていく。
学園では風邪の蔓延を小規模にする為、重い症状の生徒を一箇所に集めるのだが特例で自室療養する生徒も居る。鉢屋三郎も其の内の一人だった。
素顔を晒したくないという本人の強い要望が考慮されていた。
そういった事情のある生徒には新野による往診が行われており新野の手が離せない時には委員長である伊作が行っている。
伊作は二人の前に指示された薬を並べた。
「薬は其々纏めて何用か袋に書き記しておくけど、一応此処で簡単に説明しとくね」
一つずつ床に置いた薬を指すと説明を施した。
服用以外にも罨法薬も含まれていた。
「喉の痛みが激しいなら此れを胸の辺りに貼ると好いよ」
「有難う御座います。……取り敢えず今日の夜は看病で寝ずの番になりそうです。新野先生にも様子見といてって釘刺されました」
「何かあったら医務室か僕の部屋までおいで」
じゃあ袋に書いとくねと言うと、筆を取ろうと机を見るなり伊作は動きを止めた。
机には何故か盥があった。
盥から真白いものが曲線を描いて山のように食み出ている。
不審に思った伊作が盥を引き寄せると其の山には赤い南天の実と緑の葉が左右に付いていた。
「雪兎だ」
伊作は瞬時に誰か持ち寄ったのか悟ると左近に声を掛ける。
「若しかして仙蔵来た?」
「来られましたよ」
左近は戸口で三木ヱ門と作兵衛を見送ると余った薬を専用の箱へと収めた。
「其の盥を先輩に渡してくれって。雪だから外の縁側に置こうとしたんですけど此処で好いと言われたので」
「分かった。彼が言うなら此処に置いとこう」
「此れ、雪兎なんですか?随分と大きいですね」
八左ヱ門の言葉に伊作は苦笑した。
「生きてる兎と然程変わらない大きさだよね」
「俺、善法寺先輩が言うまで雪入れただけだと思ってましたよ」
「僕も思った。でもほら此処に目と耳があるから」
伊作は雪兎の盥を床に置くと袋に説明を書付け容れていく。
後ろで雷蔵と八左ヱ門が左近を交えて会話に興じている。
其れを耳にしながら書き終えると笊に纏めて渡した。
二人と入れ替わりに保健委員の三反田数馬が、別室から頼まれ物を取りに来ましたと告げた。
口頭で伝えられた物を手分けして集めると全員で別室に運ぶ。
今は五人が此処で療養しているが先週は二十名近くの生徒で埋まっていた。寝ている生徒の様子を見ると伊作は左近と別室から医務室へと戻る。道すがら左近が尋ねた。
「立花先輩って去年も何度か雪兎を持って来られましたよね?」
「うん。正確には雪が降る度に呉れるんだ。あれぐらいの大きさは今回が初めてだったけれど」
「昔からですか?」
驚いた様子の左近に伊作はそうだよと頷いた。
「一年の時に僕が病気に罹って部屋で寝ていたら、御見舞いだって持って来て呉れたのが始まり。今は習慣というか、此の時期は忙しくて雪見する暇も無いから慰めに呉れるみたい」
あの頃は部屋が縁側の傍だった事もあり、布団で横になりながら雪遊びをしている友人達の愉しげな声を聞いていた。
独りで居る所為か心細く淋しい心持ちになっていると仙蔵が遣って来た。其の手には雪兎があった。
伊作はとうに忘れていたのだが、自分が頻りに此れを雪が降ったら作るんだと言っていたらしい。だから代わりに作ったぞと水差しが乗せられた盆に置かれたのだった。
「伊作先輩は雪が好きなんですね」
「そう、好きだよ」
 
 
当番を終えた伊作が寒い廊下を進んでいると仙蔵が居た。
駆け寄ると仙蔵の冷えた頬に手を当てる。
「何も此処で待たなくても……」
「医務室は騒がしいし、お前が相手にしてくれないから嫌いだ)
仙蔵は頬に触れている伊作の手を取ると甲に唇を当てた。
炯炯とした目が自分を見詰める。
「雪兎は如何だった?」
溶けて水となった雪兎から紅白の斑模様の椿が一枝現れた。
大きく作られたのは此れを入れる為だったに違いない。
「凄く嬉しかったよ。有難う」
そう言うと仙蔵は相好を崩した。
初めて雪兎を持って来た時、仙蔵の髪には多くの雪が付いていた。白い頬も掌も赤くなっていたが仙蔵は笑顔だった。
記憶に無い程度の言葉を覚えていて呉れて、尚且つ病気で寝ている自分の所に作って持って来て呉れた。心細い感情も重なり泣きそうになりながら、伊作は掠れた声で如何にか有難うと言えた。
「あれ程の大きさだから手が冷たかったでしょう」
「大した事じゃない、お前が喜べば其れで好い」
「馬鹿だな……仙蔵は」
お前が望むなら何でも全て呉れて遣ろうと口癖のように言う。
自分を掌中の珠だとも言う。
何故、其処まで自分を想って呉れるのか伊作には到底解らない。
解らないが伊作にとってもまた、仙蔵は掌中の珠なのは確かだった。
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