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版権同人小説ブログ
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「い組の三年は伊賀崎だけか」
文次郎が孫兵を見遣ると隣に居る仙蔵が欠伸を噛み殺す。
二人の上級生に視線を注がれた当の孫兵は首に巻き付いている蛇の背を撫でている。
「其れで、如何する?文次郎」
「交流を深めるのが目的だそうだが……」
文次郎は言葉を濁した。
取り合えず己を含めても此処に居る者達で会話が弾むとは到底思えない。
仙蔵も同様に考えているのかいないのか当然のように自分に采配を託している。
あの、と孫兵が口を開いた。
「出来ればで好いんですけど、図書室で過ごすというのは如何でしょう?」
「図書室か?」
「読んでみたい書物が有るのですが五年生からの閲覧となっていて読めないんです。でも、先輩達の名義なら借りれるから此の機会に御願いしたいんですけど……駄目ですか?」
「閲覧制限が有るのか」
文次郎は仙蔵に視線を送ると即座に仙蔵が答えた。
「好いんじゃないか、別に読ませても。問題無かろう」
「他に思い浮かばないから其れで行くか。伊賀崎、図書室の鍵借りて来い」
「有難う御座います!」
ぱっと顔を輝かせて一礼すると孫兵が駆け出した。
其の後を緩慢とした歩みで文次郎と仙蔵が歩き出す。
「図書室に行くのは構わんが書物だけ借りて他の所へ行かないか?」
「構わないが、何処へだ。仙蔵」
「静かな場所なら何処でも好い。私は眠る」

校庭の真中で此れは如何したものかと作兵衛は自分の両隣と目前に居る上級生を交互に見た。
無自覚な方向音痴の次屋三之助と決断力のある方行音痴の神埼左門。
そして、豪快な七松小平太に無口な中在家長次。
「…………具体的に何をして過ごしますか?」
誰も口を開かないので仕方無く作兵衛が口火を切ると七松が唸った。
「午後の授業を全て使って過ごすからなぁ……そうだな。取り合えず、走るか?」
取り合えずで走るという選択肢は無いだろうと作兵衛は思った。
七松が隣に居る中在家に同意を求めると聞き取れない相槌を打っている。
左門と三之助は地面にある蟻の穴塞ぎに夢中になっている為、大人しい。
拙い。此の侭だと確実に七松先輩の意見に従う羽目になる。
作兵衛は慌てて挙手した。
「七松先輩!走るのは無しでお願いします」
「じゃあ、駆ける?」
「駆けるのも駄目です」
「あ」
「歩くのも無し!先輩達、此処に二大方向音痴が居るのを忘れてませんか?」
指し示すと左門が顔を上げた。
「大丈夫!こう見えて私も三之助も学園内には留まれてます!」
「てめぇは少し黙ってろっ」
「よし。富松の気持ちは分かったから、こうしよう」
うんと大仰に頷いてから七松は言い放った。
「神崎と三之助を鬼にして、必ず時間内に捕まえる事を目的とした鬼ごっこに決定。俺にしては冴えてる」
「そうだな」
中在家の言葉で覆せない事を悟った作兵衛は落胆した。

何をすれば好いですかという問い掛けに伊作は留三郎を見た。
すると相方は矢羽音で凄い面子が揃ったなと伝えてきた。
如何ゆう意味と返すと不運の異名を取る奴が二名も居ると答えるなり口元が笑っている。
確かに此処に不運と呼ばれる自分と三反田数馬が居るのだが、留三郎も別の不運の異名を持っている。
自分の事を忘れているよと心中で呟きながら、伊作は数馬と浦風藤内に話し掛ける。
「さて、君達は何をして過ごしたい?」
「藤内は何したい?」
「うんとね、折角こうして先輩方が居るから勉強を教えて貰えればなぁって思うんだ」
「そうだよね、先輩方に教えて貰えるしね。先輩、僕達に勉強を教えて呉れませんか?」
伊作は留三郎に目を遣った。
「僕も其れが好いと思うけど君は」
「外は危ないからな、室内なら問題無く過ごせるだろうし」
「穴に落ちなくて済むって言いたい訳?」
「目くじら立てるなよ、伊作」
「言っとくけどね、室内だって危ないんだからね!先週は蜂に追い掛け回されて階段踏み外したよ」
「俺と文次郎で受け止めたアレか」
すると数馬と藤内が驚いた様子で声を上げた。
「先輩も蜂に追い掛けられたんですか!僕もですよ」
「数馬も蜂に追われて逃げ回ってました」
何となく全員の胸に嫌な予感が過ぎり、其の場が沈黙に包まれた。

「三郎次とは委員会が同じだけれど其の他は余り面識が無いな」
「俺なんか皆とそんなに喋った事ないから、自己紹介から始めた方が良さそう」
二年の池田三郎次と川西左近、能勢久作の顔を眺めながら兵助と勘右衛門が話していると不意に兵助の肩が叩かれた。
振り向くと笑顔の八左ヱ門が居た。其の後ろには三郎と雷蔵、其れに時友四郎兵衛の姿があった。
「よう、両名。お暇だったら俺達と遊ばない?」
「そっちも暇なのか?」
「というかさ、時友って確か組違くない?」
勘右衛門の問い掛けに三郎が顔を四郎兵衛に変化させると答えた。
「は組の五年もろ組の二年も居ないから組まされたんです」
「ああ、成る程ね」
「五年が三人と二年が一人という組合せより五年五人と二年四人の方が過ごし易いと思うんですぅ」
「時友は語尾伸びないだろう、三郎。でもまあ俺も其れが好いと思うな」
勘右衛門の言葉を受けて兵助は三郎次と名前を呼んだ。
「二年も其れで好いか?」
「好いと思いますけど、何しますか?」
「其処が問題だよな」
人数が増えたからといって遣る事が決まった訳では無い。
「八左ヱ門は何かしたい事は有るか」
「俺?」
「此の面子で有意義に時間を過ごせそうな事。何か有るか?」
「あるとしたら、昨日生まれた山羊二匹に名前を付けるぐらいしか」
「やあちゃんとぎいちゃんは如何だろう」
「兵助……其れは流石に」
一寸待てと三郎の声が上がった。横に居る雷蔵が顔を顰めている。
「雷蔵が悩むじゃないか!」
「あーうんうん。じゃあ、皆で木陰に移動して山羊の名前を考えよう。兵助、此れで好い?」
全く気にも留めない勘右衛門に促され、兵助は頷いた。
何故、やあちゃんぎいちゃんの名前に渋い顔をされたのだろうと考えながら。

「一年い組の諸君!今日は此の平滝夜叉丸に質問が有れば何なりと答えよう」
教卓に手を置いて滝夜叉丸が言うなり後ろに控えている喜八郎が頭を振った。
「まずは、黒門伝七。訊きたい事は有るか」
「まだ思い付きません!」
「そうか。では、其の横に座っている任暁佐吉は如何だ」
「考え中です!」
「沢山有るだろうから整理してから言えよ。後ろにいる今福彦四郎は何か有るか?」
「もう一寸、待ってて下さい!」
「あっはは、時間はあるからな。待って遣るとも。上ノ島一平、お前は」
「えっと、其の……」
まごまごしている一平の言葉を待つ滝夜叉丸の後頭部を喜八郎は強めに叩いた。
「何をする、喜八郎っ。痛いじゃないか」
「煩いから黙りなよ、滝夜叉丸。此れは君の時間じゃなくて皆で過ごす時間でしょう」
「だから成績優秀な私への質問というだな」
「七松先輩に言い付けるよ」
顔を寄せて七松の名前を持ち出すなり、滝夜叉丸が急に口を噤んだ。
此の自惚れる相方が下級生と上級生の前では態度が一変するのを喜八郎は余り好まない。
好まないが特に七松に対する態度は絶対的なので便利な時もある。
「はい!質問しても好いですか」
伝七の元気な声に喜八郎は顔を向けた。
「どうぞ」
「如何して七松先輩の名前が出たら黙って仕舞われたんですか?」
「わあ、凄く好い質問。教えて呉れるよね?滝夜叉丸先生」
「ぐっ………」

「お前達ろ組は外で遊んだりするのか?」
教室の床に座り、目前に居る一年生四人の顔を端から見ながら三木ヱ門は尋ねた。
全員が体調が悪い訳でも無いのに顔色が青褪めている。
「外で遊んだりしますよ」
鶴町伏木蔵が言うと続けて初島孫次郎が頷いた。
「斜道先生が、汚いから泥遊びはしちゃいけないって言うんで日陰で他の子達を見てたりしてます」
「楽しいのか、其れ?」
「凄く楽しいです」
「待て。そもそも其の中に加わらないのか?」
「日向で遊ぶと怪士丸が貧血起こして倒れちゃうから駄目なんです」
言われた方の二ノ坪怪士丸がそうなんですと声を上げた。
「曇りだと結構平気なんですけどね……」
「他には何をしてるんだ?ええと、鶴町」
「建物の探検とかしてます。此間は隠し扉見付けて学園長の部屋まで行けました」
「へ………?」
学園の建物には無数の仕掛けが施されているのは知っているが実際の場所は知らされていない。
ただ教師達だけが頻繁に使用しているらしい。
当人達は面白い遊戯の一つとして捉えているようだが此れはかなり凄い事だ。
「他にも道を見付けたりしたのか?」
「はい」
「じゃあ、一番面白かった道を覚えていたら案内して呉れないか?」
探究心と好奇心が湧き上がり提案すると一年生達は車座になり小声で相談した。
暫くして鶴町が三木ヱ門に告げた。
「好いですよ」
「でも、田村先輩。他の人には内緒にして下さいね」
「喋っちゃ駄目ですよ」
「分かった」
そうして、先程から一言も発しない下坂部平太に視線を移した。
目が合うと平太はびくりと身を竦ませ孫次郎の背に隠れた。
「こいつは……」
「平太は怖がりで人見知りが激しいんで気にしないで下さい」
「平太。探検行くから厠に行っておいで」
「僕も一緒に行って上げるから、ね?」
怪士丸に手をひかれて平太が出て行く後姿を三木ヱ門はぼんやりと眺めた。

「蛞蝓は好きですか!」
「タカ丸さん、僕お腹空いちゃって動けません……」
「僕等と午後は一緒に過ごすんですよね。何して遊びますか?」
「いやぁ、タカ丸さん来るって知ってたら町まで行って稼げる手筈を整えたのにな」
「タカ丸さんの髪って解いたら何処まで毛があるんですか!」
「団蔵…毛って。其れよりタカ丸さん。今度、山田先生の火縄銃の補習受けるって本当ですか」
「七松先輩の髪の毛がぼさぼさなんで如何にかして上げて下さい」
「教室の廊下側の壁板、右から数えて五番目。押さないで下さいね。飛びます」
「あと後ろの何処かにある板を剥がすと落ちるんでよろしく」
「明日の委員会って火薬庫の掃除で良かったんですよね?土井先生、明後日って言ったんですけど」
「皆!一遍に言ったらタカ丸さんが困るだろうっ」
庄左ヱ門が言うと一年は組は静かになり、喜三太が手を上げた。
「蛞蝓は好きですか!」
問われた斉藤タカ丸は一人に対して十一人は多過ぎるだろうと困惑を隠せなかった。
「わ…割と、苦手です」
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