「はい、御土産」
縁側に面した部屋の障子戸を開けながら伊作は中に居た文次郎に向かって柿を投げた。
「良く熟れてるな。如何したんだ、此れ」
受け取った文次郎の横で寝転がっている小平太の声に伊作は
「一年生の集団に其処で会って、皆で取って来た御裾分けで貰ったんだ」
と答えながら仙蔵の隣に腰を下ろした。
「お前さぁどうせ貰うんなら五個貰って来いよ…。一個で五人分かよ」
「え。小平太、君も食べるの?勘定に入れてないけど?」
「…………………」
苦虫を噛んだ様な表情の小平太に仙蔵が笑う。
「六等分にすれば好いさ。余った一つは持って来た伊作に…」
「有難う、仙蔵。じゃあ、宜しく文次郎」
「俺が切るのか……」
「当然の事じゃない」
「当然だな」
伊作と仙蔵の言葉に文次郎は傍に居る長次から小刀を借りると手にした柿を切り分ける。
外に輝く西日の様な色をした皮から雀色の瑞々しい果実が伊作の手に渡された。
口に入れると甘い味が拡がる。
「旨いな。何処の柿なんだ」
「今度会った時にでも聞いとこうか?」
「取りに行ってももう無いんじゃないか。皆で取って来たんだろ?一年」
文次郎の言葉に、そうだなと仙蔵が呟く。
「柿といえば……今年も干してあるのか、渋柿」
吐き出した種を手持ち無沙汰に掌に乗せている小平太が口を開いた。
伊作は誰の事か思い当たり残りの柿を半分口に入れながら答えた。
「仙蔵達の組の奴だっけ?干柿の名人なんだよね?」
「ああ、多分今年も干してるんじゃないのか。なあ?文次郎」
「明日辺り聞いとく。また五人分貰えば好いんだろ」
確認する様に言う文次郎に長次が無言で頷いた。
残りの柿を口に運ぶと伊作は秋ももう終わりだなぁとぼんやり思った。
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