忍者ブログ


793
版権同人小説ブログ
45  40  39  34  32  30  29  24  23  22  21 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鉢屋三郎が傷の手当てを受けていると突然乱暴に戸が開け放たれ立花仙蔵が駆け込んで来るなり、自分の前に座っている保健委員長善法寺伊作を見た。
「伊作っ聞いてくれ!」
「如何したの?」
母親が泣いて帰って来た子供に問い掛ける様な優しい口調で善法寺が尋ねると其の後ろに座り込んだ立花が怒涛の勢いで答えた。
「先程、廊下を歩いていたら三年の教室の中から声が聞こえて来て耳を欹てたら私の事を話しているじゃないか。何を言われているのだろう?と思ったら三年の奴等が立花先輩って頭良さそうに見えるよなぁ~って言っていたんだ!其れは何か?私は頭が良さそうに見えるだけで本当は頭良くないという事か?」
「おーよしよし。可哀想に」
善法寺に頭を撫で慰めると立花はわぁんと両手で顔を覆い大袈裟な泣き真似を始めた。
そして一頻り泣き真似をすると覆うのを止め此方へ視線を移した。
「何で鉢屋が此処に居るんだ?」
「保健室だからじゃない?」
「此処に居るなら怪我か病気か其の付き添いのどれかかと思いますけど?」
善法寺に続けて答えると不満気に立花が鼻を鳴らした。
「お前じゃなくて不破なら伊作と一緒になって此の傷心の私を慰めて呉れたのに」
「おや、私でも良ければ先輩の御心を慰めて差上げますよ」
「断る」
「此方こそ」
「……君達、仲好いね」
呆れた様子で善法寺は言うなり立ち上がり道具を片付け出す。
其れを何とは無しに眺めてながら三郎は詰まらなさそうに居る立花に声を掛けた。
「で、先輩の成績は好いんですか?」
「悪い。但し実技以外はな。実技は五より下に転落した事が無い」
「総体的に見ると上ですか?下ですか?」
「おい、お前に私の成績を言う必要は無いだろう。因みに真中より上だ」
「何、律儀に答えてるの」
腰を再び下ろしながら善法寺が苦笑する。
「仙蔵は火薬の配合や火器全般に関しては得意なんだけれど筆記試験は苦手だよね。後は面倒だからって毎回課題遣らずに居るし」
「未提出ですか?」
立花の顔へと視線を移し三郎が言うと立花は馬鹿言えと答えた。
「未提出なんて出来るか。課題は出来ている奴から奪えば好いだけだ」
「普通に写させて貰えば好いんじゃないんですか」
「鉢屋……毎回は無理なんだよ。況して仙蔵の一番近くに居る常に課題が完璧な男は写させる行為自体を好まないからさ」
首を横に振り善法寺が言う其の男とは恐らく潮江文次郎の事だろう。
確かにそう簡単には写させて呉れそうには思え無い。
「此間なんて仙蔵と小平太が出来上がった課題を奪い損なってさ、長次と文次郎が横に張り付いて課題を書き上げていたしね」
「あれはなぁ小平太が悪いんだ。長次が仕掛けた罠に嵌ったおかげで明け方まで掛かって課題を遣らされたんだぞ。お前、横に文次郎と長次が張り付いてみろ?気が滅入るぞ。私より成績の悪い小平太は唸りながら書いていたしな」
「はい、素朴な疑問」
片手を上げ言うと善法寺が、はい鉢屋君どうぞと促がした。
「わざわざ潮江さんや中在家さんのを狙うよりは善法寺さんのを写させて貰えば好いんじゃないんですか~」
「残念!其れは無理なんだよ、鉢屋」
「伊作の組と私の組では課題が出される日にずれがあるから無理」
「では諦めて御自分で課題を遣れば好いのでは」
「其処に出来ている課題を前に真白い自分の課題がある。此れから自分の課題を遣るよりは遥かに早く、写せば完成させられる。という現実にお前は奪わずにいられるか?」
「いられますね」
「詰っまらん男だな~」
「其れはどうも。じゃ、私は此れで失礼します」
三郎は立ち上がると開け放たれた侭になっている戸へ向かった。
「うん。気を付けてね。後、明後日辺りに包帯の交換するから又来て」
「はーい」
後ろから掛けられた言葉に返事をすると三郎は戸を閉め寮へと歩き出す。
下級生が何故立花仙蔵を頭が良さそうに見えると評したのか非常に気になった。
頭という表現よりは成績や勉強が正しそうだが、遠からず近からずといった処だろう。
「まあ、でも本人はあんまり気にしてないよな……」
躊躇せず後輩の質問に堂々と答える彼の態度を思い出し三郎は呟いた。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カウンター
リンク
アクセス解析
Edit by : Tobio忍者ブログ│[PR]