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版権同人小説ブログ
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▼厭いている仙蔵に誘いを掛ける文次郎

好きな相手が誰かの既に手の中に在るからといって其れで諦められる訳でも無く、況して時折相手の顔が酷く厭いている表情を浮かべているのを目にすると若しやと思う。
若しや此の手で掴められるのでは無いか、と。
実際の処は如何なのだろうかと自分より先に手にした男を観察すると様子が可笑しい。
相手の機嫌を取り態度に腹を立てたかと思えば直に泣きそうな顔になる。一喜一憂とは正に此の事だろう。上手くいってますね御二人さんとは言い難い状況だ。
……好い様に振り回されているな、あいつ。
振り回している相手は其の動向を如何見ても愉しんでいる様に見受けられる。
意の侭に相手を従わせているからだろう。
自分と良く似ていると思い文次郎は愉快な気分だった。
簡単には恐らく手の中に入って来ないだろう。
其れに手にしたとしても何時迄も大人しく其処にいる性分でも無い事は承知している。
だからこそ、惹かれたのだ。

「おい。立花仙蔵」
壁に凭れ掛り今し方自分の前を通り過ぎて行った相手の名前を呼ぶと足が止まった。
振り返りもせずに仙蔵が此方の名前を呼び返す。
「人気の少ない廊下で何をしている。潮江文次郎」
「お前が通り掛かるのを待っていた」
「…用件を聞こうか」
そう言うと仙蔵は此方に顔を向けた。
長く艶やかな黒髪が風を受け仙蔵の肩へと流れ落ちた。
「今夜一晩俺の元に来ないか?」
仙蔵の顔が一瞬曇ったが直に涼しい表情へと戻った。
「私には既に相手がいるぞ」
「知ってる」
「いる以上は残念だがお前の誘いには乗れない」
「お前がそうして此方の期待を残す様な言い方をするのも知ってる」
「何が言いたい」
棘が含まれた口調に文次郎はわざと笑うと壁から離れ一歩仙蔵へと足を進めた。
「今の関係を壊して欲しいのだろう?誰かを使って。修羅場になっても自分は上から他人事の様に見下ろし面倒な事は自分を取り合う奴等に任せる。そうして勝った奴のものになった振りをして厭きれば同じ事を繰り返す……間違っているか?」
「もしそうだと言えばお前が壊して呉れるのかい?文次郎」
「いや?俺は此の侭で構わない。お前に相手が居ようが気にも留めない」
喋りながら仙蔵へと近付くと文次郎は仙蔵に肩に掛かる髪を一房を自分の方へと手繰り寄せると其の髪に口付けをした。
「偶には違う相手と過ごしてみないか?」 
仙蔵の顔を見ながら問い掛けると面白そうに仙蔵が笑みを浮かべた。
「お前、私の事が好きなのか」
「さて其れは如何だろうな。もし俺がそうだと答えたら其の場で立場が決まる。俺はお前に対して弱くなる、何故なら先に惚れたからだ。お前は其れを利用して此方を操る」
「操るとは言葉が酷い。私は只相手にこうして欲しいと望んでいるだけだ」
「お前は俺と似ている」
「何を根拠にお前と私が似ていると言う?」
文次郎は掴んでいた仙蔵の髪を放した。
「続きは後でな」
「後とは私がお前の元に訪れるという事か?了承していないぞ」
「そうだな。俺はお前に来て欲しいとは懇願しない。只、誘いを掛けているだけだ。来るも来ないも決めるのはお前自身だ。好きに選べ」
場所と時刻を伝えると文次郎は仙蔵の横を通り抜けた。
暫く進むと後ろから人の気配がして仙蔵が隣に並んだ。
共に話し掛ける事もせず歩いていると分れ道の手前で仙蔵が口を開いた。
「修羅場の種を抱え込むのは御免だ」
隣にいる文次郎に漸く聞こえる程の小さな声で言った言葉に文次郎も小声で答える。
「常に抱え込んでいて何を言う。種の芽が出なければ好いのだろう」
「………………」
仙蔵は何も言わず違う道へと早足で行ってしまった。
其の後姿を見詰めると文次郎は背を向け歩き出す。

今夜必ず仙蔵は来るだろう。
恐らく難しい顔をして現れるに違いない。
此方の手の内を読もうとするだろうが容易くは読ませない。
先に読むのは俺だ。
そして陥落するのは仙蔵、お前だよ。
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