「火薬委員会から一件、苦情報告があります。最近、下級生の委員に火薬を強要する生徒が数人居て対処に追われています。特に学園に馴染んでいない四年の斉藤タカ丸へ言葉巧みに言う生徒が多いです。以上!」
「………………………」
火薬という言葉に何となく自然に皆の視線が作法委員長に集まった。
「……おい、何で私を見ている?」
「主犯格ですか?」
思わず鉢屋が問い掛けると立花が鋭い視線で睨み付けた。
「私が火薬委員から火薬を強要したと?鉢屋三郎」
「言葉巧みなら先輩が御上手だろうなと思っただけです」
「そんな苦労するぐらいなら此処に居る奴等の火薬を掠め盗った方が早い」
「仙蔵も鉢屋も止めろ」
紙を前に置くと潮江が嘆息を吐いた。
「皆でお前の事を見て悪かったよ。鉢屋も其れ以上突っ掛かるな。火薬に関してはよく使う生徒の可能性が高いから各委員会で其れとなく名前を挙げてくれ。此れで好いか、火薬委員?」
「は、はい!」
「後で詳しく話し合いすると委員長に伝えておいてくれ。其れはそうと俺の火薬の量が若干減ったのはお前の所為と考えて好いんだな、仙蔵」
「………………っ」
自ら墓穴を掘った立花が苦々しげに舌打ちをした。
言わなくてはならない事柄が終ったからか久々知の表情が幾分柔らかくなっていた。
「他に何か報告や苦情はあるか?無いなから解散するが」
潮江はそう言うと今まで何も発言せずに居た図書委員長の中在家長次を見た。
「議長から何かあるか?」
「え!議長って……っ」
緊張が緩んだ久々知の驚きの声が室内に響き渡る。
「す、すいません…でした」
本人も予想以上に大きかった自分の声に顔を赤くして謝ると其処彼処で忍び笑いが漏れた。
竹谷を見ると紙で顔を隠しているが身体が小刻みに震えている。
「兵助……言い忘れてすまない。潮江さんと食満さんは副議長なんだ」
「そうゆう事は一番最初に言ってくれよ、鉢屋っ」
「うん、悪かった。言わないと潮江さんが議長だと思うもんな」
「凄ぇ思ってたよ!」
顔を赤くした侭の久々知に笑いを噛み殺しながら鉢屋は慰めた。
「あー、議長の!中在家も特に言いたい事柄は無いそうなので、解散!」
潮江の言葉に堪え切れないとばかりに竹谷が噴出した。
「お前なぁ、人の失敗を」
「ごめんごめん!でも、可笑しくって……何、お前あの時の顔」
竹谷に詰め寄る久々知の頭に善法寺の手が置かれた。
「お疲れ様。代役、大変だったね」
「あ、いや、そんな事は」
「また何時でも代理でおいで。じゃあね、お先に」
戸を開けると委員会の仕事があるのだろう、足早に去って行った。
続けて七松と中在家が出て行くが室内には潮江の傍に立花と食満が集まって何やら話し込んでいる。
「さて、俺達も行きますか」
「そうだな。行くぞ、兵助」
「ああ、うん」
立ち上がると鉢屋は残っている委員長に声を掛けた。
「先輩方、お先に失礼します」
「失礼しまーす」
「………ます」
部屋を出て廊下の先まで行くと行鉢屋は久々知の顔をまじまじと見た。
「何だよ」
「お前……ますって挨拶、如何なの?」
「言うなよ!俺だって気付いたけど言い直せなかったんだから」
「まー聞かれてないと好いよね」
竹谷が面白そうに久々知に言うので鉢屋も相槌を打った。
久々知は知るかと呟くと鉢屋達を置いて歩き出したので其処でまた二人は笑った。
後日。下級生及び斉藤タカ丸から火薬を強要していた生徒達が見付かった。
見付けたのは六年の立花仙蔵で其の生徒達は立花から直々に手痛いお灸を据えられたらしい。
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