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版権同人小説ブログ
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▼文次郎の甘言に陥落しまいとする仙蔵



色に溺れるは忍の心から外れている証で
色に溺れるは弱い人の心の証かもしれない。

漸く学園内が寝静まる夜更けに仙蔵は机に向かっていた。
橙色をした灯りが手元を照らして呉れている。
部屋には仙蔵しか居らず同室の男は先程出掛けた切りで帰るのか如何かも定かでは無い。念の為に敷かれた布団は皺一つ無い。
今日は何処の誰を夜這いしに行くんだ?
出て行く際に声を掛けると下級生の名前を告げた。
仙蔵の知らない名前だが初めて聞くので相手を替えたのは分かった。
色を好むというよりも相手を陥落させる事に執着している様子で今回も成就したという事は直に飽きて他の者に目を移すに違いない。
………可哀想に。
仙蔵は見知らぬ下級生に同情した。
好きになれば其れは捨てられる事にも繋がる。
追い縋っても冷酷に振り払い見向きもしない男だ。
一度とて本気で誰かを好きになってはいないのだから簡単に別れる。
恋愛は遊戯でしかなく其処には心は存在しない。
長く関係を続けるには独占欲を最小限に止め口出しは控える。
偶に近寄る野良猫みたく気紛れを装えば好い。
そして関心を惹き続けるには難攻不落な者になるしかない。
決して堕ちる事が無い方が其れだけ遊戯が続けられる。
但し気取られてはいけない。
潮江文次郎に好きだと悟られてはいけない。
其の瞬間に終わりが来る。
唐突に背中で人の気配が生まれ物思いに耽っていた仙蔵は口を開いた。
「早い帰りだな。明け方迄は戻らないかと思ったぞ」
「明朝から実習があるから長居は出来ん。体力は温存しとかないとな」
「ならば早く寝ろ」
「仙蔵、何を考えていた?背中に隙があったぞ」
「………少なくともお前には関係の無い事だ」
煩わしい気持ちで答えると肩に手が置かれ其の侭後ろに倒された。
強かに頭を床に打ち仙蔵は声を荒げた。
「文次郎っ!」
「ああ…悪い。一寸、力の加減を間違えた」
嘘だと瞬時に見抜ける言い方で惚けると文次郎の顔が視界に映る。
「退け」
冷たく言い放つと文次郎の顔が真顔になり手が離れた。
起き上がると今度は背中に文次郎が凭れ掛る。
「邪魔だから早く寝て呉れないか?」
「……仙蔵」
「何だ」
「どれ程待てば俺を好きなるか教えてくれないか?」
熱の篭った言葉に仙蔵は即答した。
「何度も言うがお前を好きになるとは限らない。他を当たれ」
「冷たい男だな……幾等俺でも傷付くぞ」
「お前が傷付いたから何だと言うんだ?まあ、最もお前に傷付けられた相手の溜飲が少し下がる程度か」
私には関係が無いがなと言うと背中に凭れ掛った文次郎がより重くなる。
「此処何年も俺はお前にしか好きだと言ってないんだ」
「重いよ、文次郎」
「少しは真面目に聞けっ」
「お前の口説きは聞き飽きた」
仙蔵の言葉に文次郎は黙った。
背中の重みがなくなり布団へ移動する音が聞こえた。
移り気な男だ。
真面目に言っているのも今だけで私が陥落すれば満たされる。
そうして今迄見てきた様に自分も傷付くのなら答えない。
とうにお前を好きになっている等とは。
何時までも自分に執着し続けて欲しい。
其の為になら自分の心を押し隠すのは容易い事だ。
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