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▼文次郎に柿を剥かせて食らう仙蔵



「柿を剥け」
唐突な立花仙蔵の言葉に文次郎は何の反応も示さなかった。
休日とはいえ遣りたい事も遣らなければならない事も山積みだ。仙蔵の言葉に何か返すのも惜しい上に関われば貴重な時間が潰される羽目になる。
長年の経験から文次郎は手元に集中した。
すると音を上げながら何かが正座をしている足先に当たる。
幾度か続けられると流石に黙っている事も出来ず振り返り足先に視線を向けると其処には熟した柿が幾つもあった。
「柿を剥け。文次郎」
寝転がり頬杖を付きながら言う仙蔵に文次郎は問い掛ける。
「俺はお前の何だ?」
其の問い掛けに仙蔵はにこりと笑ってから答えた。
「下僕。或いは従者」
「何様だ」
「さぁて?何様かな。で、柿は?」
「自分で剥け」
「お前が剥いた方が綺麗に剥ける。剥いて呉れないか、文次郎」
名前を強調する様に呼ぶ仙蔵の顔を見詰めると文次郎は考えた。
此処で剥かない場合、仙蔵は俺の勉学の邪魔をし始める。
剥いた場合は其れを大人しく食べるから勉学の邪魔にならない。
重い溜息を吐くと足先に散ばる柿を一つ手に取った。
貴重な時間が潰されるのは少しで好い。
文次郎は小刀を取り出すと捨てる紙を広げた。
右手に小刀を左手に柿を持つと先に柿を四つに分けた。そして一つ一つ皮を剥き出す。捨てられた紙の上に剥かれた皮が落ちて行く。
「盗って来たのか」
「まさか。知らない奴が呉れた」
「…………………」
下級生の事なのか女なのか何なのか一切の説明が無い。
まるで貢ぎ物じゃないか。
「食物は粗末には出来ないからな」
此方の手先を眺めながら言う仙蔵に文次郎は渋面した。
世の中はもっと、こいつに厳しくなければいけない。
大体どいつも甘やかし過ぎなんだ。
しかも其れが当然という態度なのも苛々する。
……うん?
柿を剥いている今の俺も甘やかすに該当するのか。
いいや!違う。断じて違うっ!!
此れは時間を潰されない為に已むを得ず取った行動なんだ。
「っつ!」
指先に痛みが走り手元に注目すると人差指に赤い線が出来ていた。
切ったなと思うと線から玉の様に血が溢れる。
嗚呼、くそ。考え事なんてしてるからだ。
失態に相応しい傷に舌打ちをすると寝転んでいた仙蔵が此方に遣って来た。
「血か」
「煩い。少し切っただけだ」
指先の血を如何にかしようと物が置かれた文机に視線を移した瞬間、見ていた仙蔵が徐に其の指先を口にぱくりと含んだ。
指先に温かさを感じた直後、第一間接を仙蔵の歯が軽く咥えた。そして、舌が丁寧に傷口を舐め始めると文次郎は堪らず仙蔵へと視線を戻した。
目が合っても仙蔵は止めなかった。
更に優しく丁寧に舌が幾度も文次郎の傷口を這ったかと思うと傷口を抉じ開けようとするかの如く仙蔵の舌先が強く傷をなぞる。
「………っう」
思わず声を上げると仙蔵の口が開き舌先が傷を舐めながら離れていった。
傷口の血を舐めてくれたんだ。
取り敢えずの止血を仙蔵はして呉れたんだ。
だが、しかしと文次郎はぼんやり思う。
舐められたというには余りにも此れは……。
「良かったか」
仙蔵の言葉に文次郎は顔を赤らめ立ち上がった。
早く此処から逃げよう。
未だ鮮明に咥えられた歯や舐める舌の感触が指に宿っている。
文次郎は何も答えず荒々しく開け放している障子戸の外へと向かった。

「……文次郎、如何かしたのか?」
擦れ違った方向に目を向けながら小平太は仙蔵に尋ねた。
文次郎の顔が赤く染まっていた。
部屋から出て来たので原因は仙蔵にあるに違いない。
文机に肘を付きながら仙蔵が答える。
「指を舐めただけだ」
「舐めた?」
「柿を剥いてる最中に切ったから血が溢れていてな」
「……仙蔵、普通に舐めた訳じゃないんだろう?」
其の問い掛けには答えず仙蔵は剥かれた柿を一つ手に取る。
全くと小平太は柿を食べる仙蔵を眺め文次郎を気の毒に思った。
何故なら目の前に居る友人の恋い慕う相手が彼だからだ。
好きな奴を苛めるの本当に好きだな……仙蔵は。
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